トップページ >> 日本のためのとりなし >> 2014年度 >>12月号レポート
愛国心の薦め
                      東京西バプテスト教会牧師  黒瀬 博
日本のためのとりなしニュースレター2014年12月号付録

申命記7章6節
「あなたは、あなたの神、主の聖なる民である。あなたの神、主は地の面にいるすべての民の中からあなたを選び、ご自分の宝の民とされた。」

旧約聖書ではイスラエルが「神の宝の民」と表現されています。そのことをイスラエルの民は誇りに思い、イスラエルこそ神に選ばれた民であると確信していました。この強い確信があったから小国にもかかわらず、イスラエルは歴史の荒波に揉まれながらも存続することができたのです。

(ちなみに、日本書紀において人民は「おおみたから」と読み下されています。聖書と同じ考えがあるとは面白いですね。)

愛国心は、どの国でも必要な精神として肯定的に考えられていますが、日本だけは何か悪いものであるかのように理解されています。それは太平洋戦争への反省からという面もあるでしょうが、「羹(あつもの」に懲りてなますを吹く」ということであってはなりません。

イエス・キリストは隣人愛を教えられました。「自分を愛するように隣り人を愛しなさい」という教え方に現れているように、自分を愛することが前提になり、その上で隣人愛が説かれています。これは極めて正しい教えであり、自分を愛することがなければ隣人愛も成り立ちません。そして、隣人愛は、隣人が生きている社会を愛することに繋がり、その社会が構成する国家、そして、世界へと広がります。

それゆえ、国を愛することなくして、隣人愛は具体化されません。国を否定しては、そこに生きている人々の共同体がなくなるので、隣人愛の土台が失われるからです。国を愛し、国の発展を願うことこそ、隣人愛の実践なのです。

もっとも、愛国心は自己愛の延長という面もあります。愛国心は自国愛であり、他国ではなく、自国を愛するという点では自己愛そのものです。しかし、この自己愛も「自分を愛するように」という言葉で肯定されていることを覚えなければなりません。

つまり、愛国心には隣人愛という面と、自己愛という両面がありますが、そのどちらも聖書では肯定されています。ただ、自己愛の点については行きすぎないように注意しなければなりません。

愛国心はしばしば自分の国だけを愛するという偏狭な精神を生みだします。欧米においても、愛国心は肯定されているとはいえ、危険なものというニュアンスもあり、絶賛されているわけではありません。愛国心を英語で言うと「パトリオティズム」になりますが、パーテルが父とか先祖のことで、語源からすると、もともと国家愛ではなく、家族愛、もしくは、家族主義であったのでしょう。その概念が広がって国家愛になったと考えられます。そして、今の英語の用法でもあまり良い響きがあるようには思えません。

一方で愛国心はナショナリズムの訳語としても使われます。このナショナリズムは愛国主義、国家主義であって、自国民主義というニュアンスがあり、どちらかというと悪い意味で使われる事例が多いのではないでしょうか。

つまり、愛国心は、行き過ぎた自国愛になる危険性を秘めているので、常に気をつけて教えなければならないということです。

しかし、日本の場合、愛国心を初めから悪ととらえる風潮があるので、これは反対方向への行き過ぎであると考えなければなりません。特にキリスト教会は、欧米文化を背景に、当初日本を改宗させようとする姿勢で伝道が始まったせいで、日本の伝統を悪くとらえる傾向があります。それゆえ、日本の歴史を批判し、反省を迫ることがキリスト教の役割であるかのように誤解してしまうのですが、それでは愛と赦しの宗教であるキリスト教の基本精神に反しています。これはおおいに反省しなければなりません。キリスト教はイエスの精神を実践する宗教なのですから、日本を愛し、日本の歴史を評価することを通して、日本にキリストの教えを根付かせてゆかなければなりません。

実際、神はすでに日本の歴史と文化の中に神の祝福の種をたくさん与えてくださっているのですから、評価すべきところは評価し、学ぶべきところは学んで、日本が神によって選ばれた民族のひとつであることを悟り、日本が将来的に神の導きの中で世界に貢献できる国家になることを信じ、また祈らなければなりません。

日本だけが豊かになることを願うような狭い愛国心は正しい愛国心ではありません。世界に貢献し、世界から評価され、尊敬される国家になることを願うのが愛国心です。

そういう良い意味での愛国心を発揮するためにも、私たちは日本の歴史と文化の中にどういう良い点があったかを正しく認識し、日本を愛し、尊敬し、誇りを持てるようにしなければなりません。

日本の良い点はたくさんあります。ヨーロッパから見て極東(ファーイースト)の国である日本がアジアの歴史ある国々を差し置いて、いち早く発展を遂げることが出来たのも、日本にもともと文化的蓄積があり、仏教・神道・儒教により培われた高い倫理観があったからなのです。

中でも日本発展の原動力となったのは日本人の謙虚さです。もう少し率直な言い方をするなら、「自分たちは遅れているという意識」です。このような謙虚な精神を国民性の特質として持っている民族が他にいるでしょうか。これはキリスト教で教える罪意識と同様の効果を日本民族にもたらしました。日本は明治維新以後、遅れを取り戻すため遮二無二欧米文化を学び、それを取り入れました。他の民族の場合、プライドが高すぎて、欧米文化に抵抗し、受け入れるのに時間がかかりました。ところが、日本ではほとんど抵抗なく、短期間に受け入れ、そして、それを咀嚼してしまったのです。これはヨーロッパ人も驚くほどでした。

この「遅れている」という意識の出発点は、はるか昔の飛鳥時代、奈良時代に遡ります。日本が中国と交流を始めた頃、日本には文化と言えるものがありませんでした。それで、中国文明の良いものをどんどん取り入れることにより、国家作りがなされました。日本語を表記するための漢字の導入、日時を決めるための暦、法律制度(律令制度)、都の形まで中国から学びました。日本の食事になくてはならない箸も中国から学んだもののひとつです。この時代、日本は優秀な学生を遣隋使、遣唐使として中国に派遣し、帰ってきた者たちを国家の要職につけて国作りを急ぎました。

中国は中華民国というように、自分の国が一番であると思ってきました。事実、アジアではもっとも歴史の長い国であり、世界に誇る文化・文明を持っています。しかし、その意識が他国を低く見る習慣を生み、欧米の文化を輸入することに多大の抵抗を感じてしまったのです。これは長い民族の歴史の中で形成された感情なので、そう簡単に変えることは出来ないでしょう。しかし、それが中国の発展を阻害し、遅らせてしまうのです。日本は中国とは逆に、自分たちが遅れていると思っているので、欧米の文化をどんどん受け入れることが出来るのです。そして、それを改良して発展させる能力まで備えているのですから、大したものだといえます。

第2の良い点と思われるものは、日本の歴史の長さです。私は長い間、日本の歴史は短いと思っていました。奈良時代から今日までわずか1250年ほどしかありません。中国には3000年の歴史があります。文明という点で見るなら5000年の歴史です。大したものです。

しかし、ヨーロッパにしばらく滞在しているときに気がつきました。ヨーロッパの歴史は日本よりもかなり短いのです。ヨーロッパの中では比較的古い国であるスイスの建国が1291年です。ちょうど日本における元寇のすぐ後のことです。その他の国々は民族移動や、王朝の交替などで、いつからその国が始まったかは微妙なところがありますが、ドイツの建国は1871年とされています。明治維新が1867年ですから、それよりもあとになります。王朝の交代を無視するなら、イギリス、フランスなどは古くから存続していると認めることができますが、ヨーロッパ全体を見るとき、それぞれの民族国家ができて、国語と文字(綴り)が確定するのは1500年以降のことです。ヨーロッパは、現在は世界最先端の国々ばかりですが、その歴史は思いのほか短いものなのです。それに比べて、日本の歴史はなんと長いことでしょうか。

歴史が短いということは文化的蓄積が少ないということです。ヨーロッパには日本の古事記・日本書紀にあたる書物がありません。また、万葉集、今昔物語、源氏物語のような古い書物はありません。聖書はイスラエルの文献なので古代ヨーロッパの文書ではありません。もっとも、ギリシャ・ローマにはありますから、厳密には「北ヨーロッパにない」というべきでしょう。そして、現在のヨーロッパの中心は北ヨーロッパですから、彼らと比べると日本は非常に古い伝統のある国ということになります。

もっとも、「長いから良い」と単純に言えるものではありません。北ヨーロッパは短い歴史のわりに大発展を遂げたのであり、日本は長い歴史のわりにあまり発展しなかったとも言えるからです。しかし、ある程度の長さの歴史の中で文化的蓄積はあるわけで、識字率の高さ、犯罪率の低さ、倫理・道徳心の強さなど、誇るところはたくさんあります。

「日本だけがよい国だ」などという偏狭な考え方をしてはなりませんが、「日本にもよいところはある」という誇りは大切です。まさに愛国心は、家族愛であり、郷土愛であり、民族愛と同列のものですから、これを大切にし、教会もまた家族愛、郷土愛をはぐくみつつ、愛国心の必要性を教えてゆけるようにしたいものです。





                                       以 上

トップ>> 日本のためのとりなし >> 2014年度 >>12月号レポート >> 次へ